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64歳元社長、巽さんがクラシックバイクとガレージに情熱を注ぐ理由とは?

バイクに乗らないライターが、バイク乗りにバイクの魅力を伺う取材第二弾。

前回は、ドゥカティを愛し、62歳にして現役でレースに出場する中川さんにお話を伺った。今回は、中川さんのお知り合いだという巽孝至(たつみ たかし)さんにお話を伺う。

巽さんは、クラシックバイクのレストアとツーリングを中心にバイクライフを送る、中川さんとは少し違ったスタイルのバイク乗り。話によると、かなりの台数のバイクを保有しており、ガレージの作りこみも相当とのこと。ガレージの完成度の高さに、バイク屋に間違えて通行人が入ってくることもあるという。

中川さんが「めっちゃオシャレでカッコいい」と唸る巽さんのガレージにて、巽さんのバイクにかける想いを伺った。

クラシックバイクのショールームとして利用するガレージ

巽さん1

取材場所である巽さんのガレージに到着し、まずはガレージを拝見させてもらった。どこかオシャレな古着屋さんのような雰囲気が漂う空間。

ピカピカにレストアされたクラシックバイクが7台、奥に見えるショーケースにはレストアに利用するであろうバイクパーツ、その他あちこちにヴィンテージ感溢れる小物が置かれている。

巽さん2

▲YAMAHA初の4サイクルエンジンを搭載したバイク XS-1(初期モデル)。

ガレージに並ぶバイクのひとつひとつは、現在では非常に貴重なマシンばかり。巽さんは40歳ごろからクラシックバイクのレストアにハマり、ボロボロだったバイクを自分の手で蘇らせてきたという。

巽さん3

▲レストアを施すためのガレージ、バイク屋と遜色ない工具や設備が揃う。現在レストア中だというHONDAのCL77 type2が置かれている。

お金をかけず、有りモノのパーツを組み合わせてオリジナルなバイクに仕上げるのが巽さんのスタイル。自分のセンスと技術で、どうバイクを蘇らせるのかを考えるのがたまらなく楽しいと巽さん。

巽さん4

完成品が増えるにつれてバイクが手に余るようになり、オウンサイト(T-PADDOCK630)で購入希望者を募り「この人に乗ってもらいたい」という方に少しずつお譲りしているという。このガレージは、その際のショールームとしても利用している。巽さんは10年前に元々工場だったこの建物を購入し、少しずつ今の姿に近づけてきた。現時点での完成度は「60点くらい」とのこと。

オリジナリティー溢れるバイクの数々やガレージ。まだお会いしてから数分しか経っていないが、独特の価値観・センスを持つ人物であることがすぐに想像できる。本職は別にあるというが、ガレージとバイクを作り上げる技術とセンスはプロ顔負けだ。

趣味というにはあまりにも本格的すぎるガレージとクラシックバイク。本業以外の余暇でここまで作りこむには、普通ではない情熱が必要だ。巽さんをここまで掻き立てる情熱の源泉はどこにあるのだろう?

バイクに熱中する若者が突然バイクを辞めた理由

巽さん5

巽さんがバイクに出会ったのは中学2年のころ。ホンダのカブに乗せてもらったことがきっかけでバイクの世界に魅了されたという。「カブにはじめて乗ってみて、こがなくても走るっていうことにすごく感動したんですよ。当時の自分にとってすごく衝撃的で、一発でハマりましたね」。

また、機械いじりにも興味があり、中学卒業後は工業高校の自動車工学科に入学。自動車工学・応用力学など、バイクいじりの知識と技術を身につけた。免許を取得するとすぐにバイクを購入し、学校以外の時間はアルバイトとバイクに明け暮れたという。

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▲バイク・車にハマっていた当時の写真。

バイクと車が若者の文化を象徴していた60年代後半から70年代。青春まっただ中だった巽さんは、バイクや車にさらに熱中していった。大学進学が一般的になりつつあった時期でもあり、大学→就職という流れの中で、余暇でバイクや車を楽しむというが若者の生き方のひとつだった。

しかし、巽さんはそんな一般的な若者の生き方から離れ、30歳での独立を目指すようになる。そこには、当時働いていたアルバイト先の店長が語った「大きな目標を定めて、逆算しながら生き方を考える」という言葉の影響があったという。

「店長の話を聞いて、自分の目標は何なのかと考えたときに、大学に行きたいとは思えなかったんです。もっと大きな何かを成し遂げたいという想いがあって、とりあえず30歳までに自分のビジネスを見つけて独立するという目標を立てました」。

大学進学から急遽進路を変更し『働きながら自分のビジネスを探す』という方向に向かった。しかし、進学を希望していた父親からは猛反対を受けたという。「とりあえず大学出とけみたいな感じで言われていたんで、父親とすごい喧嘩になって、結局家出しました」。

巽さんは生活費や独立に向けてのお金を貯めるために、バイクや車をすべて売り払った。ここから40代になるまでの約20年間、巽さんはバイクとは縁遠い生活を送ることになる。

一台のサビついたバイクが巽さんの情熱を呼び起こす

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30歳で独立するという目標を掲げ、仕事に没頭した巽さん。目標通り30歳で子ども服メーカーを立ち上げ、独立する。ブランド名は「FITH(フィス)」、デザイナーズブランドのような洗練されたデザインを子ども服に取り入れるというアイデアではじまったこのブランドは、立ち上げ後すぐに業界で話題になったという。

「すごいブランドができたっていうことで、話題になったんですよ。あっという間に火がついて、事業は順調に進んでいきました」。

一度は業績不振に陥るものの、5つのブランドを打ち出し、全国展開、海外進出など、業界内で不動の地位を築くまでに成長。NYやLAの店舗には、ハリウッドスターや一流スポーツ選手などが顧客に名を連ねている。巽さんは、ここまで会社を成長させるために、自分の時間のほとんどを仕事に費やしたという。

「娯楽といえば車をたまに乗り換えるくらいで、他はすべてのエネルギーを仕事に注いでいましたね。特に40歳くらいまではフルスロットルでした」。

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▲取引のあるイタリアのセレクトショップ「WP LAVORI IN CORSO」の30周年を記念して作られた本に掲載された。

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▲忙しい中でも定期的に乗り換えていたという車の写真。「ベンツに乗ると勘違いする(笑)」と巽さん。

ひたすら仕事をこなしていった30代が過ぎ、少し仕事に余裕が生まれたのは40歳を過ぎたころ。たまたま出会ったモンキーというバイクが、巽さんを再びバイクの世界に引き込んだ。

「実家に兄貴のモンキーが雨ざらしで置いてあったのが目に入ったんですよ。サビだらけになっていて、あまりに可哀想だったので、自分の家に持って帰ってサビを落としてあげたんです」。

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▲取材時に巽さんがレストアされていたバイク。元祖ストリートスクランブラーCL77。

20年間、仕事一筋で駆け抜けてきた巽さん。久しぶりにバイクに触れながら、心がリセットされるのを感じたという。

「こういう時間って大事やなって思いましたね。趣味って現実逃避みたいな捉えられ方もしていますけど、僕はバイクいじることで心と頭が空っぽになって、気持ちがパッと入れ替わるんですよね。仕事したくないなって時でも、少しバイク触ったらスイッチが入る。これは僕にとってすごい発見でした」。

それ以来、巽さんは仕事の合間を見つけてはバイクをいじるようになった。モンキーのサビ落としがきっかけで、一度は辞めたバイクの世界に再びのめり込み、現在のガレージを作るに至る。

ガレージ・バイクと向き合いながら取り戻した青春

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20年ぶりにバイクを楽しむようになった巽さん。次第にバイクの数がどんどん増えていき、以前のガレージが手狭になったという。そして、よりバイクとの時間を楽しむために、10年前に現在のガレージを作リ始めた。このガレージは、バイクはもちろん、小物のひとつひとつに至るまで、巽さんのこだわりで溢れている。

「廃材とか貰い物を使って、できるかぎりお金をかけずにやるっていうのが僕の美学なんですよ。お金かけたらいいモノをすぐに置けるけど、それではあんまりおもしろくなくて、想像力とセンスで一から作っていくっていうのが好きなんですよね」。

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家具や小物のほとんどは、廃材や貰い物を加工して作成。イス・テーブル・棚などはもちろん、奥に見えるツナギやジャケットをかける赤い箱も巽さんが自作したもの。なんと赤い箱の基になったのは、会社で使わなくなったサーバーのケースだという。

「道を歩きながら廃材拾っているときもありますね(笑)。なんか使えそうやなって思ったら、とりあえず持って帰る。それから、何に使おうかなって考えるんですが、その時間が楽しくてしかたないんですよ(笑)」。

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▲レンチを取っ手代わりに再利用。ガレージいっぱいに、巽さんのアイデアが詰まっている。

このガレージのテーマは「日本語を消す」、雰囲気は70~80年代のアメリカをイメージしているという。また、海外出張で見た街角や工場の跡地など、いい雰囲気だなと感じた場所がインスピレーションになることもあるらしい。それ以外はほとんど何も決めず、感性で作るものやデザインを考えている。あまりのハマり具合に、社員から「どっちが本業なんですか?」と叱られることもあったとのこと。

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▲NYの駐禁ステッカー。実際に巽さんが駐禁を取られてしまったときのもの。

60歳で現役の第一線から引退し、現在は日本企業の海外出店のコンサルティングを行なっている。仕事は15時頃までで、それ以降はガレージ作りとバイクのレストアを楽しむ時間だ。20代で手放した青春を取り戻すように、じっくりバイクと向き合っているという。

「本当は20代。30代のときにもっとバイクを楽しみたかったんですが、野望を実現するために諦めるしかなかった。だから今、乗りたかったけど乗れなかったバイクを集めて、レストアしながら自分の青春を復活させているんですよ」。

20代から40年近くの月日を経て、何にも縛られることなくバイクと向き合える場所と時間を手にした。クラシックバイクに触れているとき、巽さんはバイクを自分の生き写しのように感じることがあるという。バイクのひとつひとつにかつての自分を重ね合わせ、労をねぎらってあげているのかもしれない。

がむしゃらに何かを追いかける若い情熱に、大人のセンスと技術が加わることで、プロ顔負けのレストアやガレージが生み出された。無我夢中でバイクやガレージと向き合う巽さん。バイクやガレージについて語る、身振り、手振り、表情、言葉のひとつひとつから、無垢で力強い若さを感じた。

バイクと人の不思議なコミュニケーション

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▲60年代カフェレーサー風のW1S。タンクには、巽さんのオウンサイトT-PADDOCK630ステッカー。

趣味の範囲を超越した生粋のバイク好き。その情熱は、一度は捨てた青春を復活させるというところから湧き上がるものだった。しかし、話を伺っていると、よりピュアな感情が巽さんを掻き立てているようにも感じられる。巽さんは、バイクの魅力に関して、こんなふうに語ってくれた。

「前日は快調にエンジンかかってたのに、次の日は全然かからないとかしょっちゅうあって、すぐに不機嫌になるんですよ。そうすると、どうしたんや今日は?ってバイクと普通に会話しているんですよね。バイクは車体と身体が近いから、乗っていると鼓動を直に感じる。言葉にしにくいですけど、なんだか生き物と触れ合っているような感覚があるんです」。

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また、一台にばっかりかまっていると、他のバイクが不機嫌になることもあると巽さん。「ヤキモチ焼いてるんかなって本気で思うくらい、不機嫌になるんですよね(笑)だから一台一台に同じように愛情を注いであげないといけないんです」。

身体を密着させることで感じる鼓動、ヤキモチを焼いているかのような振る舞い、そんなバイクとの触れ合いの中に、バイクでしか味わえないコミュニケーションがある。巽さんは、まるで恋人とのノロケ話をするかのようにバイクを語る。バイクに乗らない僕には、その感情のすべてを理解することはできないが、それは恋人を想う感情と似たものなのかもしれない。一度はバイクを諦めた巽さんだからこそ、誰よりも深くその感情を感じるのだろう。

 

バイクはとても不思議な乗り物だ。身も蓋もない言い方をすれば、鉄の塊でしかないのはずが、人のさまざまな感情を引き出し、惹きつける。バイクと人の間で交わされる不思議なコミュニケーション。バイク乗りたちは、そんな不思議な体験を求めて、今日もバイクに向かうのだ。

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